第2章 ゆたかな感情がもてるよう、学び合いを深めながら
~指導者集団づくりについて思うこと~

●「人」といっしょに仕事ができる力を
「養護学校の先生に、いちばん大事なことは?」と聞かれると、「人と仕事ができることかな」と答えることにしました。障害児学級から養護学校にうつったとき、「自分ひとりの思いではやっていけない。たくさんの、そしていろんな先生方と手を組んでいかなければと」と、胸に秘めおくことにしました。人はみな、生活してきた歴史のちがいをそれぞれにもっています。そのことから物事の読み取りの深さにちがいがあります。そんな教師仲間と「複数指導者体制、ふたり担任制」など養護学校独特のしくみのなかで、自分もずいぶん鍛えられたような気がします。1972年に開校した組合立阪神養護学校が「教育に下限なし」を合い言葉に全員入学に踏み切りました。障害の重い子をうけとめる場として5名定員の重複学級(現在3名)が10学級がつくられ、そこには小学1年生を除いて全員が就学猶予免除をうけてきた子どもたち、8割が自閉の子どもでした。開校直前に「全入」が決まったため、教室を二つに間仕切りすることで間に合わせます。この狭い場に自閉の子が5人、大人2人(先生と、介助員)がひしめきあいます。

 

●それは、現実的な対応の中で始まった
「人のマネをしたり、人のしていることに興味をもつことは、すごく大きな要素であるのに、それがない。みんなの中にいたら、そんなにギャーギャー言わなくてもすむのに、無理にヤレヤレといってやらせる。なかまの中で自然に覚えていくことをおさえつけ、こちらの命令でやらせることが習慣化している。発達する要素がとりだせるような学級ができないか」――こんな声が重複学級担任から起こってきたのは、1年が終りに近づいたころです。この5人学級を固定化しないで、もっと子どもどうしがかかわりあえる場をつくりたいと知恵をしぼりました。自閉の子だけでない集団(生活集団/基礎集団) を用意し、同時に「ふたり担任制」をとることにいたったのです。「基礎集団」なんて言葉も、どこか新鮮なひびきをもっていました。「子どもは集団のなかで発達する」なんていわれても、「発達」とか、「集団」とか、遠い国から聞こえてくることばでした。全障研が生まれて,まだ5年です。理論的な学習もなく、現実的な対応に追われた中での試みです。ゆれ動くことはしょっちゅうです。「ひとりではできないことが、みんなのなかではやれる―1歳の力が集団の中では2歳に3歳にもなる」と保護者に大見得をきっていましたが(小・3年「学年だより」)そんなかんたんにことは運びませんが、でも、一方ではそれに立ち向かう教師の心をかきたてるものがありました。

 

●「ウマがあう、あわない」におしとどめないで
いまでは、障害児学校の複数指導者体制などは、自然なかたちでとりいれられています。「子どもを複眼でみる」ことが、子どもの発達をとらえるうえで大切であることが実践的に明らかにされてきたからでしょう。当時は、「違和感」が先生方の気持ちの中にくすぶっていました。その年以降も、毎年の学級担任の「ペアづくり」は、重苦しい空気がただよいます。子どもの発達をみるためには、相互の働きかけがいるということはわかるのですが、その人の生活の重みからくる感情の多様さは、その理解力をこえて、むなしさやあきらめをつくらなかったとはいえない面もでてきました。子どもの見方、指導のちがいが放置されたままの実践では、ある日とつぜん、ペアが破綻して二つのクラスになっても不思議ではありません。どこかでガマンすることも、おかれた現実の前には耐えなければならないと考えたこともあります。管理職からは、二人担任は「無責任体制・サボり助長策」などと批判され、県教委からは「認可された重複学級で」と監査で指摘をうけたこともあります。「子どもの発達にとって何がいちばん大事か」―“問題の処理は子どもにたちかえる”ということはゆずれない。「ウマがあう、合わない」の問題におしとどめないために、人の行動の源泉である感情を、おたがいゆたかにもてるように働こう。子どもの発達をみつめて、「どうしよう、こうしよう」と平素の話し合いのつみあげが出発点であると確かめ合いました。学び合いの気風の中で、相互の理解と信頼が生まれるということを学びとったことは、何物にもかえがたい財産となりました。

 

●若者のフレッシュな感覚に期待
いつも私のそばで見つめつづけてくれた小冊子「障害児教育入門」(1977年全障研/発行、第11回全障研全国大会-愛知)があります。教師集団をつくりあげていくのに必要な5点があげられています。

○思いつきでも口に出してみる

○いいことは何でも真似をしてみる。

○自分の得意の分野を生かす

○わからないときは、「ああでもない、こうでもない」と話し合う

○見通しをもった教育課程を自分達の力でつくりながら、実践で検証していく。

――フレッシュな感覚が実践にみがきをかけることでしょう。

 

(支部ニュース掲載日:2011年5月11日)